台湾ではバイリンガル教育でもめている・・・バイリンガルか?国語読解能力が先か?生徒にもっと余裕を!

 今回の題材

出典先:雙語教育挨轟干擾正常教學 全教總籲廢除教育部回應了より
出典先:雙語教育挨轟干擾正常教學 全教總籲廢除教育部回應了


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<解説>

日本でも小学校からの英語教育とやらを始めていますが、台湾では小学校から英語教育を「かなり力を入れて」やっています。

2030年までに普通に中国語も英語も話せるようなバイリンガル教育を完成させる、というのが2019年以来の国の目標なのです。

が、それをめぐっては現在、かなり論議がなされていて、総統選をめぐってもこの問題はけっこう影響があります。記事に出てくる全教總=全國教師工會總聯合會とは、台湾全国の教育関係者の組合ですので、彼らの意向は総統選や立法院議員選挙にもけっこう影響を及ぼします。

私は娘が台湾の公立小学校に通っているのですが、すでに小学一年生から英語(台湾では美語=アメリカ語という意味)の授業が週2コマほどあって、それとは別に「国語」、すなわち中国語の授業もあって、さらには台湾語(閩南語という、福建語の台湾方言。中国語=北京語が四声なのに対し、七声のイントネーションを持つ華南系言語)の授業もあって・・・小学校低学年なのに、授業が50分×6時限とかあるわけです。

これはもうバイリンガル教育というよりも、マルチリンガル教育ですけれど、悪く言えば「授業漬け」と言った方がいいのかもしれません。

が、とにかく学校側も大変で、カリキュラムを終わらせるには小学校低学年でもこんなに授業漬けですし、ここに祝日が入ればカリキュラムが終わらない、というので祝日連休がある場合は、補填のために前後の土曜日が通常授業になったりします。

英語が国際公用語となっている現代、確かに英語教育は国際的に活躍する人間を育成するには重要ではあります。

しかし、子供は勉強ばかりでなく、遊びの中から多くのことを学んでいくものですし、こんなに授業漬けではどうなのだろうか・・・?というのは素朴な疑問です。

また、カリキュラムがぎっしりになってしまっていることは、いろいろな意味で子供にも学校にも余裕がないわけで、記事にもある通り、これをめぐっては教師の側からも父兄たちからも批判が出てきて紛糾してきています。総統選候補者たちがこれにどう対応する気でいるのか?は、総統選でも一つの焦点となるほどです。

個人的な見解ですが、たとえばハーフの子で生まれながらにバイリンガル、マルチリンガルというケースはありますけれど、そうだとしても、言語の場合は理解力や構想力、読解力などはまた別なものです。耳が慣れればなんとかなるというものではありません。

たとえば、日本語で高度な内容を読解できず、また文章を書く能力もない人が、英語ならばできるか?といえば、そんなことはないでしょう。

むしろ、母語となるものをしっかりと使いこなせるようになることの方が重要です。

それに、見ていると台湾人の場合は英語以前に、北京語=中国語と閩南語でほとんどの人がバイリンガルであり、そのためか中学校から英語や日本語を学ぶにしろ、きわめて早く言語は習得します。これは音のイントネーションが複雑な閩南語を日常使っていることとも関係はありそうです。

小学校低学年から、そんなに英語教育するくらいなら、もっと自由に遊ぶ時間を作った方がいいんじゃない?などと思ってしまいますが・・・。

日本は日本で、小学校で英語とか始めていますけれど、結局はキッズ英語塾だの塾通いまでさせている親もいて、教育熱心は結構だけれど、果たして意味あるのか・・・?とは率直に思います。

筆者が最近の高校生、大学生を観察すると、驚くほど日本語の理解能力が低い子が多いと思います。これは進学校か否か、どこの大学か、は関係ありません。おそらくですが、自分の興味関心を読書等で広げる、という経験が圧倒的に不足しているのですよね。課題だけは熱心にやりますが、教養や思考能力に難がある人が多く見受けられるように思います。・・・それだと、当然英語教育をしたって英語で議論もできないのでは?と思ってしまうのです。そんな型にはめたバイリンガル教育押し付けて、塾通いまでさせるくらいなら、好きに本でも漫画でも読ませた方がいいんではないのかなあ?というのが率直な感想です。

まあ、台湾の場合は、こういう問題に関しては、「率直な」意見がいろいろと出て来ます。お上がレギュレーションを決めたら従うだけ、というのが日本ですが、台湾では紛糾しつつ場合によれば強烈なデモが起こり、政権もそうした意見を反映させていかないとすぐ落選する・・・というお国柄です。

今後また検討はなされていくでしょうが、少なくとも小学生にはもう少し余裕を持たせ、遊びの中で自由に思考できるようにしてもらいたいものです。これは日本もそうですが・・・。


<大意訳 全文>

(タイトル)

◎バイリンガル教育が正常な教育方式を脅かす 全国教職員総連合会は教育部の回答撤回を呼びかける

全国教職員総連合会(全教總)は先日、2024年総統選立候補者たち3組のバイリンガル教育政策に対する態度を総括し、バイリンガル政策は教師、生徒に負担をもたらしており、バイリンガル政策を廃止できるよう国民会議を招集し包括的に検討することを要望する、と声を張り上げた。理事長の侯俊良Hóujùnliángは、現在の全体的な問題はすでに物理的な問題であり、(バイリンガル教育政策に基づくカリキュラムを)実行することができなくなってしまっている。政府がただ教育部に要求を出すばかりでは改善など永遠にできない、と端的に述べた。これに対し教育部長である潘文忠は回答として、今後のことは順を追って検討していくが、バイリンガル政策はやはり必要だ、と繰り返した。

全教總は7日に記者会見を開き、三人の立候補者たちの言語教育に対する態度を一つ一つ取り上げた。国民党の侯友宜については、課程綱要にある英語教育に立ち戻り現在のバイリンガル教育の混乱を是正する、と主張している。侯俊良はこれに対し、もしバイリンガル教育政策に問題があることを認識しているのならば、まずは現在市長として行政を行っている新北市において「待ったをかけ」て、先に教育を正常軌道に戻すこともできるだろう(なのになぜやっていない?)。民進党の賴清德については、安定した皆が良くなる教育環境づくりを推し進める、と約束したとしても、国外(への進出)を憂慮してなされているバイリンガル教育で科学の学習がおろそかになってしまっており、学生が教育を受ける権利(が守られているか?)などの問題においても影響を及ぼしてしまっている。(民進党が進めてきた教育政策は)どれもただ「戦術」レベルの対策でしかなく、「戦略」眼がないのである。その他、(民衆党の候補)柯文哲はこれについてはもし支援策がなければ2030年にバイリンガル政策を達成することは不可能だと認め、バイリンガルを教える教師の育成や田舎における教育資源の格差を(自分が総統になれば)補っていくと主張する。全教總はこれに対しても同様に戦術的な段階で停滞したまま(の見解)だ、と批判する。

これに対し台湾大学人文社会高等研究院院長の廖咸浩もまたこう述べる。20年後、若者たちにとっての言語競争力は二種類(の能力が必要)で、一つは国語としての言語能力、もう一つはAIを使う能力である。英語は重要だけれども、だがやはりバイリンガル政策がもたらしている過度の学習は即時やめるべきで、国語を基盤とした(思考能力による)競争力に影響を及ぼすのは回避せねばならない、と。

こうした声に教育部長である潘文忠は次のように回答する。英語能力もデジタル能力も、いずれも学生たちの将来にとって重要なものの一環であるが、全体として学校の状況がどこも同じではないことは考慮し、すべての学校が歩調を同じくしてバイリンガル政策を実施するよう強制すべきではないし、教育団体の意見は引き続き受け止めていくべきである。だが重ねて申し上げるがバイリンガル教育政策は「その必要性がある」ので、今後引き続き(うまく機能する)方法を探り、学生たちには科学の基本を学ぶことを決しておろそかにさせないようにしていくべきだ、と。

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原文引用・語彙注釈・大意訳

◆今回の出典先:台湾Yahoo!:中廣新聞網

2023年12月8日 週五 上午10:51

セクション1

◎雙語教育挨轟干擾正常教學 全教總籲廢除教育部回應了

全教總日前盤點3組2024總統參選人對雙語政策的態度,坦言雙語政策造成老師、學生負擔,期盼可以廢除雙語政策,並召開國是會議全盤檢討。理事長侯俊良Hóujùnliáng直言,現在整個問題已經是結構性的,面對執行面的缺失,政府只有讓教育部發函提醒改善遠遠不夠。對此教育部長潘文忠Pān wénzhōng則回應,未來會做滾動式檢討,但重申雙語政策仍有必要性。

<語彙注釈>

挨轟干擾Āi hōng gānrǎo=おびやかす 全教總quánjiào zǒng=全國教師工會總聯合會、教員組合 籲Yù=呼びかける 盤點Pándiǎn=在庫、棚卸、ここでは総括する 結構性Jiégòu xìng=構造的な 發函提醒Fā hán tíxǐng=要求を出す 會議全盤檢討Huìyì quánpán jiǎntǎo=会議全体の検討 做滾動式檢討Zuò gǔndòng shì jiǎntǎo=(スクロールするように)順繰りに検討 

<大意訳>

(タイトル)

◎バイリンガル教育が正常な教育方式を脅かす 全国教職員総連合会は教育部の回答撤回を呼びかける

全国教職員総連合会(全教總)は先日、2024年総統選立候補者たち3組のバイリンガル教育政策に対する態度を総括し、バイリンガル政策は教師、生徒に負担をもたらしており、バイリンガル政策を廃止できるよう国民会議を招集し包括的に検討することを要望する、と声を張り上げた。理事長の侯俊良Hóujùnliángは、現在の全体的な問題はすでに物理的な問題であり、(バイリンガル教育政策に基づくカリキュラムを)実行することができなくなってしまっている。政府がただ教育部に要求を出すばかりでは改善など永遠にできない、と端的に述べた。これに対し教育部長である潘文忠は回答として、今後のことは順を追って検討していくが、バイリンガル政策はやはり必要だ、と繰り返した。


セクション2

全教總7日召開記者會,談到3位參選人對語言教學的態度一一回應。在國民黨侯友宜Hóuyǒuyí方面,侯主張回歸到課綱中的英語教學,導正現在的雙語教學亂象。侯俊良則回應,若覺得雙語政策有問題,可以先在主政的新北市「喊卡」先讓教育回歸正軌。而民進黨賴清德Làiqīngdé雖承諾會推動穩定友善的教學環境,但對於外界擔心的雙語忽略學科學習、影響學生受教權等議題,都只有「戰術」層級的對策,而沒有「戰略」的眼光。另外柯文哲Kēwénzhé則認為若沒有配套措施,就不可能達成2030雙語政策,並主張培育雙語師資、彌補偏鄉資源落差。全教總則回擊同樣都只停留在戰術階段。

<語彙注釈>

課綱Kè gāng=課程綱要、日本で言えば指導要綱 亂象Luàn xiàng=混乱 喊卡Hǎn kǎ=やめさせる 正軌Zhèngguǐ=正規の軌道 承諾Chéngnuò=約束する 對於Duìyú=のために 忽略Hūlüè=おろそかにする 層級Céngjí=階層、レベル 配套措施Pèitào cuòshī=支援策 師資Shīzī=教師 彌補偏鄉資源落差Míbǔ piān xiāng zīyuán luòchā=田舎の教育資源格差を補う 停留Tíngliú=とどまる

<大意訳>

全教總は7日に記者会見を開き、三人の立候補者たちの言語教育に対する態度を一つ一つ取り上げた。国民党の侯友宜については、課程綱要にある英語教育に立ち戻り現在のバイリンガル教育の混乱を是正する、と主張している。侯俊良はこれに対し、もしバイリンガル教育政策に問題があることを認識しているのならば、まずは現在市長として行政を行っている新北市において「待ったをかけ」て、先に教育を正常軌道に戻すこともできるだろう(なのになぜやっていない?)※。民進党の賴清德については、安定した皆が良くなる教育環境づくりを推し進める、と約束したとしても、国外(への進出)を憂慮してなされているバイリンガル教育で科学の学習がおろそかになってしまっており、学生が教育を受ける権利(が守られているか?)などの問題においても影響を及ぼしてしまっている。(民進党が進めてきた教育政策は)どれもただ「戦術」レベルの対策でしかなく、「戦略」眼がないのである。その他、(民衆党の候補)柯文哲はこれについてはもし支援策がなければ2030年にバイリンガル政策を達成することは不可能だと認め、バイリンガルを教える教師の育成や田舎における教育資源の格差を(自分が総統になれば)補っていくと主張する。全教總はこれに対しても同様に戦術的な段階で停滞したまま(の見解)だ、と批判する。

※国民党の総統選立候補者・侯友宜は、現在、台北市周辺部のベッドタウンエリアである新北市における現職の市長である。

セクション3

台大人文社會高等研究院院長廖咸浩Liàoxiánhào也回應,20年後年輕人在語言競爭力有兩種,一種是國家語言的能力,另外是使用AI的能力。,雖然英語重要,但還是要立即停止雙語政策造成的過度學習,免得影響到以國家語言為基礎的競爭力。

<語彙注釈>

國家語言Guójiā yǔyán=国語 基礎Jīchǔ=基盤とする

<大意訳>

これに対し台湾大学人文社会高等研究院院長の廖咸浩もまたこう述べる。20年後、若者たちにとっての言語競争力は二種類(の能力が必要)で、一つは国語としての言語能力、もう一つはAIを使う能力である。英語は重要だけれども、だがやはりバイリンガル政策がもたらしている過度の学習は即時やめるべきで、国語を基盤とした(思考能力による)競争力に影響を及ぼすのは回避せねばならない、と。


セクション4

對此教育部長潘文忠Pān wénzhōng則回應,不管是英語能力還是數位能力,都是學生未來很重要的一環。但考量到學校整體狀況不同,不會強迫所有學校都要同步實施雙語政策,對於教團的意見會持續了解。但也重申雙語政策「有其必要性」未來會繼續找方法,絕對不會讓學生荒廢基本學科。

<語彙注釈>

教育部長Jiàoyù bùzhǎng=文部大臣 實施Shíshī=実施する 教團Jiào tuán=教育団体 荒廢Huāngfèi=荒廃させる

<大意訳>

こうした声に教育部長である潘文忠は次のように回答する。英語能力もデジタル能力も、いずれも学生たちの将来にとって重要なものの一環であるが、全体として学校の状況がどこも同じではないことは考慮し、すべての学校が歩調を同じくしてバイリンガル政策を実施するよう強制すべきではないし、教育団体の意見は引き続き受け止めていくべきである。だが重ねて申し上げるがバイリンガル教育政策は「その必要性がある」ので、今後引き続き(うまく機能する)方法を探り、学生たちには科学の基本を学ぶことを決しておろそかにさせないようにしていくべきだ、と。


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